自由が丘の歯医者コラム

なぜ私は歯周病専門医であることにこだわるのか ― インプラント治療との向き合い方

診療の中で、患者さんから「先生はインプラントの専門医ではないのですか?」と尋ねられることがあります。当院ではインプラント治療も行っていますが、私が取得した専門医資格は「歯周病専門医」です。今回は、なぜ私がこの道を選んだのか、そしてインプラント治療をどのように位置づけているのかをお話しします。

インプラント治療との出会い

私がインプラント治療に興味を持ったのは、1990年、まだ歯学生だった頃です。臨床実習で担当してくださった先生が、当時まだ珍しかったブローネマルク・インプラントを臨床に取り入れておられ、その可能性を熱心に語ってくださいました(当時のことは「インプラント治療を習得するまで」でも書いています)。卒業後は、インプラント治療に力を入れる先生の下で臨床に携わり、ブローネマルク・システムについては国際デンタルアカデミー(IDA)のコースで学びました。

1994年に初めてインプラント埋入をスタートさせたものの、1990年代はインプラント治療が大きく発展した時代でした。インプラントを埋めるだけの骨が足りなければ骨を造り、難しい症例にも外科的な工夫で対応する。

私自身もそうした技術を経験しましたが、インプラントを強く望む方の希望を叶える一方で、大がかりな外科処置の後に生じる歯ぐき(軟組織)のトラブルや、術後の腫れや痛みといった患者さんのご負担も目の当たりにしました。
インプラント治療のみを学ぶだけでは足りない。歯ぐきを扱う歯周治療を、もっと深く学ばなければならない。そう考えるようになったのです。

ISCT、そして西堀雅一先生との出会い

2000年9月、私は西堀雅一先生の門を叩き、西堀歯科医院で毎週金曜日に開かれている勉強会ISCT(Interdisciplinary Study Club Tokyo)に参加するようになりました。西堀先生は、ペンシルベニア大学で歯周科・歯周補綴科の専門医課程を修められ、1997年に日本国内で初めて米国歯周病学会の認定を受けられた先生です。ISCTでは、エビデンスレベルの高い英文論文の抄読と症例検討を毎週交互に重ねてきました(当時のことは「インプラント治療を習得するまで(part 8)」に書いています)。天然歯とインプラントのどちらかに偏るのではなく、両方をエビデンスに基づいて考える。ISCTで学んだこの姿勢が、現在も私の診療の基本姿勢となっています。

「歯周病専門医の役割」が問われた時代

2000年代、インプラント治療の高い成功率が広く知られるようになると、欧米の歯周病学会では、議論の中心が「歯を残す治療」からインプラント治療へと移りつつありました。私は当時、西堀先生やAAPに参加された先生方から欧米歯周病学会のトレンドの変化を幾度となく伺いました。米国の歯科専門誌でも「歯周病学はどこへ向かうのか」と、歯周病専門医の本来の役割を問い直す論説が掲載されたこともありました。

それから僅か数年後の2008年、欧州の歯周病学ワークショップで、インプラント体周囲の疾患に関する合意声明がまとめられました。
このグループを率いたのは、ペンシルベニア大学歯学部長も務めた歯周病学の第一人者、Jan Lindhe教授でした。その声明の中で、歯周炎の既往歴はインプラント周囲の病気のリスク指標となってしまうこと、インプラント体を入れる前に歯周病を治療し、その後も適切な歯周メインテナンスを受けることが不可欠であることが明記されました。と同時にインプラント周囲炎は治療が難しく、結果の予測が難しい病気であることも示され、インプラント体を長く守るためには、歯周病学の知識と管理が欠かせないと締め括られていました。

2011年、そして歯周病専門医に

こうした流れの中で、私は歯周病専門医の使命が「いかに天然歯を守り、残すか」にあると再認識し、2011年に歯周病専門医資格を取得しました。

その一方で、当時議論の多かったインプラント周囲の骨吸収については、ISCTの先生方とともに研究を重ね、2014年には歯科専門誌『歯界展望』に、インプラント周囲の辺縁骨吸収の原因を探る論文を共著させて頂きました。(その内容は「インプラント周囲辺縁骨吸収のメカニズム」で患者さん向けに解説しています)。それまでのインプラント治療を否定するのではなく、インプラント治療の持つ課題を理解したうえで、歯周病の専門性を軸にするという道を選んだのです。

インプラントは「機能回復の選択肢の一つ」

どのような治療にも、メリットとデメリットがあります。インプラント治療は、しっかり噛める機能を取り戻しやすく、隣の歯を削らずに済むという利点があります。一方で、外科手術が必要であること、咀嚼機能回復まで時間がかかる事、健康保険が適用されないこと、インプラント周囲炎のリスクがあり生涯にわたる管理が必要であることも事実です。ブリッジや入れ歯、そして歯周組織再生療法などで歯を残す治療にも、それぞれに長所と限界があります。

治療を選ぶのは、歯科医師ではなく、治療を受ける患者さんご自身だと私は考えます。

私たちの役割は、それぞれの選択肢について正確な情報と見通しをお伝えし、患者さんが納得して選べるようにすることです。そして、インプラント治療を選ばれた場合であっても、埋入前の歯周治療と、その後のメインテナンスを何より大事にしております。

歯を残すための治療については
「歯周組織再生療法(GTR・骨移植・成長因子)の今」

インプラント治療の考え方の変化については
「インプラント治療のプロトコルはなぜ変わったのか?」

インプラントの寿命については
「インプラント治療は一生ものですか?」

もあわせてご覧ください。

参考文献

  • Lindhe J, Meyle J. Peri-implant diseases: Consensus Report of the Sixth European Workshop on Periodontology. J Clin Periodontol. 2008;35(Suppl. 8):282–285.
  • Buischi YP. Where is periodontology heading? [Guest Editorial]. Int J Periodontics Restorative Dent. 2008;28(5):438–439.
  • 服部 義, 田川雅康, 小林成人, 西堀雅一. 特別寄稿 インプラントのMarginal Bone Loss-インプラント周囲辺縁骨吸収の原因を探る. 歯界展望. 2014;123(1).