「インプラント治療は一生もの」という言葉を耳にすることがありますが、実際の臨床経過を踏まえると、必ずしもそうとは言えません。
多くの症例を長期的に見てきた実感として、術後しばらく問題がなくても、5年を超えたあたりから徐々にトラブルが出始めるケースが少なくありません。
当院(自由が丘・田川歯科)はインプラント周囲炎にも対応できる歯周病専門医として、関東近県から様々なインプラントトラブルのご相談をいただいており、多様なケースに触れる機会があります。現在主流のオッセオインテグレーションタイプのインプラントは、1965年にブローネマルク教授によって世界で初めて臨床応用されたのが最初と言われています。
当院では1994年にUCLA補綴学エクステンションプログラム講座でブローネンマルクインプラントを学び、臨床導入から30年以上、多くの症例を経過観察してきました。
また毎週金曜日には、American Board of PeriodontologyのMemberである西堀雅一先生の院内勉強会に参加し、最新の知見を学んでいます(2014年10月には、ヨーロッパ歯周病学会2012年報告データと当院の長期症例を比較した臨床報告も行っております)。
Q. 具体的に、10年後の生存率はどのくらいですか?
近年の系統的レビュー(Howe, Keys & Richards, 2019, Journal of Dentistry)では、現代的なインプラントシステムにおける10年時点でのインプラント生存率は96.4%(95%信頼区間95.2〜97.5%)と報告されています。
10,871本のインプラントを対象とした長期コホート研究(最長22年追跡)でも、10年生存率96.8%、15年生存率94.0%という結果が示されており、複数の研究でおおむね一致した高い生存率が確認されています。
Q. 生存率が高いのに、なぜ「トラブルが増える」と言われるのですか?
重要なのは、「生存率」と「トラブルがないこと」は同じ意味ではないという点です。
「生存」とはインプラントが口腔内に残っている状態を指し、周囲の炎症や骨吸収があっても、生存率の低下としては現れません。
Academy of Osseointegration(AO、1986年設立の米国のインプラント学会)と米国歯周病学会(AAP)による共同系統的レビューでは、インプラント周囲粘膜炎(周囲組織の炎症)の患者レベルでの有病率は46%、より進行したインプラント周囲炎(骨吸収を伴う)は21%と報告されており、20年間の経過観察ではそれぞれ53%・22%まで増加するとされています。
また別の大規模コホート研究でも、インプラント周囲炎の発症率は術後2〜3年で2%だったものが、8〜10年後には7.1%まで上昇したと報告されています。
私自身の臨床経験でも、術後5年を過ぎた頃からトラブルが出始める傾向は、これらの報告と一致しています。(※当院で採用しておりますXiveインプラントにおいては20年超の症例でもトラブル発生がほとんど観察されておりません。)
Q. 具体的にはどんなトラブルが多いのですか?
主に起こりやすいトラブルは次の3つです。
- 上部構造(インプラントの上の歯)のトラブル:Sailer・Pjeturssonら(Periodontol 2000, 2022)らの文献によれば、単独歯を補うインプラント治療において、土台となるインプラント自体の10年生存率は95.2%と高い一方、その上に装着するクラウン(被せ物)自体の10年生存率は89.4%とやや低く、最初の10年間で10%超のクラウンが何らかの理由で交換されています。
- 内部構造(スクリューなど)に関連するトラブル:スクリューの緩みは5年時点で8.8%程度報告されており、パーツ設計の改良と連結時の推奨トルク値設定により2000年以降は発生率が低下傾向にあります。
- インプラント周囲の炎症(インプラント周囲炎)
Q. トラブルのリスクを高める要因はありますか?
複数の系統的レビューで、インプラント周囲炎のリスク因子として歯周病の既往、糖尿病、喫煙、過度の飲酒が挙げられています。
歯周病の既往がある方は、既往のない方と比較して、特に術後5年以降でインプラントの生存率が有意に低下するという20年規模の前向き研究も報告されています。
歯周病専門医として日々の診療でも、これらの要因を持つ患者さんには、より慎重な経過観察が必要だと感じています。
Q. インプラント治療を検討する際、どんな点に注意すればよいですか?
インプラント周囲炎は、術前の診断や設計、埋入位置、メインテナンスの質など、複数の要因が影響します。被せ物などの上部構造やスクリュー関連のトラブルは多くのメーカーで報告されていますが、製品や部品供給が長期に安定しているメーカーであれば、もしもの場合にでも対応がスムーズになる傾向があります。
そのため、症例数が多く、長期経過を管理してきた経験のある歯科医師を選ぶこと、不具合が起きた際の対応方法まで含めた十分な治療説明を受けることが大切です。歯周病の既往がある方、糖尿病をお持ちの方、喫煙されている方は、より入念なメインテナンス計画が必要になる点も知っておいていただきたいポイントです。
当院にご相談にいらっしゃる患者さんのお話を伺っている限りでは、「安くて完璧」という治療はインプラントに限らず存在しないというのが実感です。治療の質や安全性を第一に考え、納得のうえで治療に進まれることをおすすめします。
目黒区・世田谷区・大田区、東横線・大井町線・田園都市線沿線でインプラントや歯周病治療をご検討の方は、自由が丘駅徒歩3分の歯周病専門医までお気軽にご相談ください。