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歯周組織再生療法(GTR・骨移植・成長因子)の今 ― できることと、できないこと

歯周病が進行すると、歯を支える歯槽骨や歯根膜などの「歯周組織」が失われていきます。従来の歯周外科治療(フラップ手術など)は、これ以上の破壊を止め、清掃しやすい環境を作ることを目的としたものでした。一方で、一度失われた歯周組織そのものを取り戻すことを目指す治療法が「歯周組織再生療法」です。

現在、日本国内で用いられている代表的な再生療法には、次のようなものがあります。

  • 骨移植術:自家骨や人工骨(ハイドロキシアパタイトなど)、あるいは異種骨(ウシ由来など)を欠損部に補う方法
  • GTR法(歯周組織再生誘導法):吸収性の膜を骨欠損部に設置し、歯肉の上皮が先に入り込んでしまうのを防ぎながら、歯根膜由来の細胞がじっくり再生するスペースを確保する方法
  • エムドゲイン(EMD):ブタの歯胚由来のタンパク質を応用し、セメント質の形成を誘導する方法
  • リグロス(FGF-2製剤):血管新生や細胞増殖を促す成長因子(塩基性線維芽細胞増殖因子)を用いる、国産の再生医療用医薬品

それぞれの材料そのものの特徴や作用機序については、歯周病の再生治療に用いられる材料についてでも詳しく解説しています。

これらは、日本歯周病学会が発行する診療ガイドラインで、その適応と限界が定期的に整理されています。2012年に初版が出た「歯周病患者における再生治療のガイドライン」は2023年に大幅改訂され、GRADE(グレード)という国際標準の手法で、それぞれの治療法についてエビデンスの強さと推奨度が評価し直されました。

どんな場合に、どんな条件で行えるのか

再生療法は「歯周病ならなんでも使える治療」ではありません。適応となる骨欠損の"形"がかなり厳密に決まっています。

  • 骨縁下欠損(垂直性の骨欠損):骨の壁が2〜3面残っている欠損に適応。GTR法・EMD・FGF-2のいずれも、この形の欠損に対しては良好な成績が報告されています。
  • 根分岐部病変(歯の根が分かれる部分の骨欠損):奥歯に特有の病変で、病変の進行度(1〜3度)によって再生療法が効くかどうかが大きく変わります(詳しくは後述します)。

費用の面では、GTR法・EMD・FGF-2(リグロス)はいずれも、条件を満たせば健康保険の適用が可能です。ただし、健康保険の診療報酬で使用できるGTR用の膜は、国内承認された製品の一部に限られています。国際的に広く使われているBio-Gide®は、その対象には入っていません。当院でGTR法を行う場合は、Bio-Oss®(骨移植材)とBio-Gide®(吸収性膜)を組み合わせた術式を採用しており、これは保険外(自費)診療となります。

リスクとしては、FGF-2製剤について、頻度は高くないものの投与部位周辺の軟組織がやや硬く腫れる(硬結・肥厚)ことが報告されており、手術時の切開の仕方によってそのリスクが左右されることが分かっています。GTR法では、術後に膜の一部が露出することがありますが、多くは自然に治まります。

実際にどう選ばれるか

2023年のガイドラインでは、単に「再生療法をするかしないか」ではなく、どの材料をどの状況で選ぶべきかという、より実践的な比較検討がされています。

  • 骨縁下欠損に対しては、GTR法・EMD・FGF-2のいずれも、フラップ手術単独より明確に優れた効果があるとされています。
  • 根分岐部病変(2度)に対しては、GTR法は明確に効果があるとされる一方、EMDの効果はやや限定的、FGF-2についてはこの病変への使用は推奨されていません。
  • EMDとGTR法、あるいはFGF-2とEMDのどちらが優れているかという比較では、いずれも「弱い推奨」にとどまっており、現状では「どちらが優れているとまでは言い切れない」というのが実際のところです。
  • 骨移植材をGTR法やEMDに追加で併用することについては、多くの臨床試験の結果を平均すると、単独治療と比べて明確な上乗せ効果は確認されていません。ただしこの結論には重要な限定条件があります。骨欠損の壁数が少なく、範囲が広い欠損では、GTR膜だけでは再生に必要なスペースが保たれにくいため、骨移植材を「足場(スキャフォルド)」として組み合わせる意義があると考えられています。当院では、この考え方に基づき、GTR法においてBio-Gide(吸収性膜)とBio-Oss(骨移植材)を併用する術式を基本としています。

このように、当院では「再生療法を行うかどうか」だけでなく、欠損の形・部位・進行度に応じて、どの方法が適切かを個別に判断することを重視しています。

実際の症例(EMD単独治療)

治療内容:基本の歯周治療で炎症のコントロールを確認できたため、EMD単独での治療を行いました。
標準的な費用:EMD治療:100,000円/1歯(税別)
治療期間・回数:外科治療は1回。その後、術後経過の確認と抜糸で2〜3回通院いただきます。
主なリスク・副作用:患部に限局した術後の腫脹・発赤・不快感が生じることがありますが、EMD単独治療は比較的副作用が少なく、文献上も大きな副作用は報告されていません。
(※長期経過症例を追って解ったことは、再生した骨であれSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)を受けていないと再び骨吸収してしまいます。逆にSPTを継続されている方は骨再生後は何年経っても骨吸収しません。)

再生できる場合と、できない場合がある

再生療法という言葉には期待を持たれやすい面がありますが、ガイドラインを正確に読むと、「効果がある」とされている範囲は実はかなり限定的です。

  • 根分岐部病変のうち、進行が最も進んだ「3度」については、明確に再生が得られるというエビデンスは確立していません。実際に治療の選択肢になるのは、比較的初期〜中程度の病変に限られます。
  • 比較試験の中には「推奨の強さが弱い」「エビデンスの確実性が非常に弱い」と評価されている項目が複数あり、これは「今のところ、はっきりした差があるとは言えない」ことを意味します。ガイドラインが「行う」と結論づけている項目でも、その根拠の強さには幅があることを正直にお伝えする必要があります。
  • また、骨移植材とGTR法・EMDの併用効果についても、大規模な比較試験の平均では明確な上乗せ効果が確認されていない一方、骨欠損の形態別(壁数の少ない広範囲な欠損など)に絞った検証は十分に行われていません。どのような欠損形態で、どの程度の上乗せ効果が期待できるのかは、今後の研究課題として残っている部分です。
  • 喫煙している方については、再生療法そのものを行わないことが強く推奨されています。喫煙は歯周組織の血流に影響し、再生療法の効果を大きく損なうことが分かっているためです。
  • そもそも再生療法は、歯周病そのものの原因(プラーク・歯石、生活習慣によるリスク要因など)を取り除く基本治療がしっかり行われていることが前提です。土台となる炎症のコントロールができていない状態で再生療法だけを行っても、期待した効果は得られません。

つまり、再生療法は「魔法のように歯周組織を元に戻す治療」ではなく、適応となる条件を満たした限られたケースで、基本治療の効果を土台にした上乗せの選択肢という位置づけが正確な理解です。

エビデンスについて

本記事は、日本歯周病学会が発行した「歯周治療のガイドライン2022」および、より専門的に再生療法を扱った「歯周病患者における再生治療のガイドライン2012,2023」の内容に基づいています。2023年版は、国際的な診療ガイドライン作成手法であるGRADEアプローチを用いて、複数の海外の臨床試験を統合した解析(メタアナリシス)をもとに推奨度とエビデンスの確実性を評価しており、2012年版の時点よりも各治療法の適応と限界がより明確に整理されています。また、米国歯周病学会(AAP)が2015年に発行した合意声明・系統的レビューも、骨欠損の形態と治療法選択の関係について参考にしています。

参考文献
日本歯周病学会編:歯周治療のガイドライン2022
日本歯周病学会編:歯周病患者における再生治療のガイドライン2012
日本歯周病学会編:歯周病患者における再生治療のガイドライン2023
Reynolds MA, et al.:Periodontal Regeneration – Intrabony Defects: A Consensus Report From the AAP Regeneration Workshop. J Periodontol 2015;86(Suppl.):S105-S107.
Kao RT, Nares S, Reynolds MA:Periodontal Regeneration – Intrabony Defects: A Systematic Review From the AAP Regeneration Workshop. J Periodontol 2015;86(Suppl.):S77-S104.