自由が丘の歯医者コラム

インプラント治療を習得するまで(part 7)

インプラントを支えるのは、骨だけではない

1996年から4年間、私は港区広尾の千賀デンタルクリニックに在籍しました。

ここでは、インプラントの埋入経験を積むことができました。

同時に、骨吸収が進んだ患者さんに対して骨造成を行う治療にも数多く携わりました。

そして、その経験が私のその後の臨床を大きく変えることになります。

骨をつくった、その先にある問題

骨造成を伴うインプラント治療では、骨をつくることそのものがゴールではありません。

本当に難しかったのは、その後の治癒過程でした。

当時、私が経験した合併症の多くは、インプラントそのものではなく、周囲の軟組織、つまり歯肉の治癒不良として現れました。

歯肉の状態が安定しない。

創部が開いてしまう。

感染のリスクが高まる。

せっかく行った骨造成を、軟組織の問題によって失ってしまう可能性もある。

そこで私は、ひとつのことを思い知らされました。

インプラント治療は、インプラントを骨に埋めれば終わる治療ではない。

骨を扱う技術だけでは足りない。

その周囲にある歯肉を適切に扱い、治癒を導き、長期的に安定させる技術が必要なのです。

「歯肉を治す技術」が必要だった

当時の私は、インプラントの外科手技を学んでいました。

しかし、実際の臨床で問題に直面すると、それだけでは足りないことが分かります。

合併症をリカバリーするためには、より高度な歯周治療の知識と技術が必要でした。

そこで私は、インプラント治療を深く学ぶほど、

歯周病学を知らなければならない。

ということを強く感じるようになりました。

振り返ってみれば、これが現在の私の歯周治療への研鑽につながる、大きな転機だったのだと思います。


もうひとつ、忘れられない経験

千賀デンタルクリニックで経験したことは、臨床だけではありません。

1999年、院長であった千賀保彦先生が突然亡くなられました。

それに伴い、診療所は法人としての解散を余儀なくされ、私たちは患者さんの診療を他の先生方へ引き継ぐことになりました。

そのとき、思いがけない問題が起こりました。

当時使用していたアンキロス・インプラント・システムは、現在ほど一般的なシステムではありませんでした。

患者さんをご紹介する先生方の中には、そのインプラントについて十分な知識や経験を持っていない方もいらっしゃいました。

私は、患者さんを引き継いでいただく立場でありながら、

「この患者さんのインプラントを、これから誰が、どのようにメインテナンスしていくのだろう」

という不安を感じました。

インプラントは「入れた後」まで考える

この経験は、私にとって非常に大きな教訓になりました。

インプラント治療では、手術が終わった瞬間に治療が完了するわけではありません。

むしろ、そこから長いメインテナンスが始まります。

だからこそ、

「今、このインプラントを埋入できるか」

だけではなく、

「10年後、20年後も、このインプラントを管理できるのか」

という視点が必要なのではないか。

そう考えるようになりました。

現在では、インプラントにはさまざまなメーカー、形状、表面性状、接続様式を持つシステムがあります。

一方で、いったん骨の中に埋入されたインプラントは、外から見ればレントゲン画像に写る形状などからシステムを推測するしかない場合があります。

メーカーやシステムが分からなければ、将来の修理やメインテナンス、トラブルへの対応に制限が生じることがあります。

つまり、

「どのインプラントを使うのか」も、術者の責任のひとつなのではないか。

千賀デンタルクリニックでの経験から、私はそう考えるようになりました。

そのため現在、私はインプラント治療を行った患者さんには、使用したインプラントシステムが分かるよう、治療記録カードをお渡しするようにしています。

インプラントは、その患者さんの身体の中で長く使われるものです。

だからこそ、埋入した歯科医院だけでなく、将来どこでメインテナンスを受けることになっても、使用されたインプラントが分かるようにしておく。

それも、インプラント治療を行う歯科医師の責任だと考えています。

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