自由が丘の歯医者コラム

「ブルーラジカル」は歯周病治療を変えるのか ―― エビデンスの読み方を考える

歯周病治療の世界には、次々と新しい治療機器が登場します。

最近よく耳にするようになったものの一つが、過酸化水素水と青色光を利用した「ブルーラジカル」という治療器です。この治療について、患者さんや玉川歯科医師会の先生方からも「効果がどうなのか?」「導入しないのか?」というご相談や歯周病専門医・指導医としての見解を問われる機会が増えてきました。

今日は、この治療そのものを否定するためではなく、「新しい治療の情報を、どう読み解けばよいのか」という視点で、少し丁寧にお話ししたいと思います。

ブルーラジカルとは、どういう治療なのか

ブルーラジカル(P-01)は、3%の過酸化水素水に405nm付近の青色光を照射し、発生するヒドロキシルラジカル(活性酸素の一種)によって歯周ポケット内の細菌を殺菌するという機器です。これに、チップの超音波振動による歯石・プラークの物理的除去を組み合わせます。

この技術は東北大学の研究グループが開発したもので、医師主導治験を経て、厚生労働省の医療機器認定において「歯周治療・歯周炎・歯周ポケットの殺菌・スケーリング」という適応が明記されています。つまり、根拠のない怪しい機器ではなく、国内で正規の医療機器承認を受けた治療法です。ここは正確にお伝えしておきたい点です。

一方で、「国が承認した医療機器である」ことと、「世界的標準の歯周病治療が変わるほどの治療」として確立しているかは別の話です。この違いを整理することが、今日お伝えしたい内容なのです。

出典: Kanno T. et al. (2017) Scientific Reports 7, 12247, Figure 3(一部トリミング)。CC BY 4.0に基づき使用。

2017年の研究では、何が示されたのか

ブルーラジカルの基盤となる技術については、2017年にKannoらのグループから報告された研究が基になります。

中等度~重度に罹患した歯周炎患者53名・142歯を対象に、

  • 従来の歯周基本治療(root debridement)+過酸化水素光分解
  • 従来の歯周基本治療+ミノサイクリンの局所投与
  • 従来の歯周基本治療のみ

の3グループを比較したランダム化比較試験(RCT)が行われました。

12週間後の再評価において、過酸化水素光分解を追加したグループでは、歯周ポケットの深さがより改善していたことが報告されています(炎症の残存を示す出血の有無については、グループ間での有意な差は認められませんでした)

Adjunctive antimicrobial chemotherapy based on hydrogen peroxide photolysis for non-surgical treatment of moderate to severe periodontitis: a randomized controlled trial  Taro.Kanno et.al

Scientific Reports article-number 12247 2017

これは科学的に意味のある結果ですが、この研究によって示されたのは、

「この条件・この期間においては、追加的な治療をすることで短期的臨床指標に改善が見られた」

ということです。この研究の結果をもって、

  • 長期的に歯を失わずに済むのか
  • 歯を支える骨の破壊を抑えられるのか
  • 歯周外科が本当に不要になるのか
  • 従来の標準治療より優れているのか

といったことまでは、証明されていません。

「論文がある」ことと「標準治療である」ことの違い

医療の世界では、一つの研究で良い結果が出ることと、その治療法が世界的な標準治療として確立することは、同じではありません。

新しい治療の価値が国際的に認められるには、通常、複数の独立した研究による再現性の確認、systematic reviewやmeta-analysisでの評価、そして国際的な診療ガイドラインでの位置づけ、という積み重ねが必要となります。

ここで参考になるのが、欧州歯周病連盟(EFP)が2020年に発表した、歯周炎治療に関する国際的な診療ガイドラインです。

このガイドラインでは、光を利用した抗菌療法(光線力学療法・aPDT)全般について、複数のRCTを統合したメタ分析の結果、通常の歯肉縁下器具的治療に単回の光線力学療法を付加しても、歯周ポケットの減少幅はおよそ0.21mm程度にとどまる結果であったとされており、基本的な歯周治療において補助療法としてのルーティンな使用は推奨しない、という結論になっています。

これは「光を使った治療に効果がまったくない」という意味ではありません。従来の基本的な歯周治療に光線力学療法を追加的に行ったところで、すべての患者さんに臨床的に意味のある明確な利益が確立されているとまでは言えない、という評価です。EBM(根拠に基づく医療)での批判的吟味においては、こうした冷静な線引きが重要視されています。

ブルーラジカルは、従来の光線力学療法と同じではない

ここで一つ、注意しておきたいことがあります。

ブルーラジカルは、過酸化水素の光分解によってラジカルを発生させる仕組みであり、従来型の光線力学療法(色素を使った光増感剤+特定波長の光)とは作用機序が異なります。よって、

「従来の光線力学療法が推奨されていないから、ブルーラジカルも同じように評価される」

と単純に結論づけることはできません。しかし同時に、

「作用機序が新しいから、従来の治療より優れている」

ということも、当然ながら証明されていません。

新しい仕組みを持つ治療法であれば、その治療法自体について、あらためて臨床的な有効性が検証される必要があります。

現時点で言えること・言えないこと

現在確認できる情報を整理すると、次のようになります。

○ 言えること - 過酸化水素光分解を歯周基本治療に追加する臨床研究が存在する - 2017年のRCTでは、短期間(12週=約3ヶ月)の歯周ポケット改善が報告されている - 国内では医師主導治験を経て、厚生労働省から医療機器としての承認を受けている

△ 現時点では十分に言えないこと - 長期的に歯を残せるかどうか - 歯を支える骨の破壊を抑えられるかどうか - 歯周外科を回避できるかどうか - 従来の標準治療より優れているかどうか - 国際的な診療ガイドラインにおいて、標準治療の一部として位置づけられているかどうか

「国内で承認された治療器である」ことと、「世界的標準の歯周病治療を変えるほどのエビデンスが確立している」こととは、現時点では別の話、というのが正確な位置づけだと考えています。

患者さんに知っていただきたいこと

「新しい治療」「国が認めた治療器」「99.99%殺菌」――こうした言葉は、とても魅力的に響きます。

しかし、歯周病治療で本当に大切なのは、その治療によってご自身の歯を長く残せるかどうかであり、今受けている治療に追加してまで受けるだけの、明確な利益があるかどうかです。

新しい治療法を頭ごなしに否定する必要はありません。有望な技術であれば、これから質の高い研究の積み重ねによって、その価値がより明確になっていくはずです。

だからこそ、私たち歯科医療者も、そして患者さん自身も、

「エビデンスが示している範囲」と「そこから期待してよい範囲」を混同しない

ことが大切だと考えています。ご不安な点やご質問があれば、診療の際にお気軽にお尋ねください。

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