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正しい歯科診療とは?Evidence-Based Dentistry(EBM)の基本と実践方法|Part12010.08.28

EBM(Evidence-Based Dentistry)入門 -- 臨床で「使える」基礎編

患者さんにとって安全で効果的な治療を選ぶために、歯科にも「EBM(Evidence-Based Medicine/Dentistry)」の考え方が欠かせません。Part1では、EBMの全体像と臨床で最初に行うべき「症状の定式化」と「情報収集」の基本をやさしく解説します。

1. EBM / Evidence-Based Dentistryとは?

EBM(Evidence-Based Medicine)の考え方を歯科に応用したものが Evidence-Based Dentistry(EBD) です。簡単に言えば、患者さん一人ひとりの状況に対して「最良の利用可能な科学的根拠」+「臨床経験」+「患者の価値観・希望」を組み合わせて治療を決める手法です。

2. EBDの実践プロセス(4ステップ)

  1. 臨床的疑問の定義(症状の定式化):患者の主訴を明確化します。
  2. 最良の証拠を検索:信頼できるデータベースで論文を探します(例:PubMed、Cochrane 等)。
  3. 証拠の批判的吟味:方法論の質、バイアスの有無、外的妥当性を評価します。
  4. 臨床へ適用・評価:患者に説明して同意を得たうえで適用し、結果を評価します。

3. Part1でまずやること:症状の定式化(Clinical Questionの作り方)

EBDは「問い(PICO など)」が明確であるほど、適切なエビデンスを得やすくなります。PICOは次の要素で構成されます。

  • P(Patient / Problem):患者の属性・疾患(例:40代女性、慢性歯周炎)
  • I(Intervention):検討する処置(例:スケーリング+抗菌薬)
  • C(Comparison):比較対象(例:スケーリングのみ)
  • O(Outcome):評価項目(例:プロービング深さの改善、疼痛の軽減)

実際の問に落とし込む例:「慢性歯周炎の40代女性に対し、スケーリング+局所抗菌薬はスケーリング単独よりプロービング深さをどれだけ改善するか?」

4. 情報収集の基本:信頼できる情報源

臨床に使う情報は「二次情報(系統的レビュー、ガイドライン)」→「一次研究(ランダム化比較試験)」→「観察研究」の順で信頼度が高いとされています。まずは系統的レビュー(例:Cochrane)や専門学会のガイドラインを確認しましょう。

注意点(医療広告ガイドライン準拠): - Web検索でヒットする「治療例」や「症例写真」はバイアスが強いことがあります。 - 一つの論文だけで結論を出すのは危険です。複数の質の高いエビデンスを総合的に判断します。

5. 臨床メモ:患者説明と同意(インフォームドコンセント)

EBDでは、科学的根拠に基づく推奨を患者さんにわかりやすく説明し、患者さんの価値観や生活事情を踏まえて最終判断を行います。説明の際は以下を明確に伝えます:

  • 期待できる効果とその根拠
  • 起こり得るリスク・合併症
  • 代替治療(ないしは経過観察)の選択肢

(※ 当院では、患者さんが納得できるよう、図やデータを用いて丁寧に説明しています。)

6. まとめ(Part1)と次回予告

Part1では EBD の概念と「症状の定式化」「信頼できる情報の探し方」について解説しました。次回(Part2)では「論文の批判的吟味:エビデンスの質をどう評価するか(ランダム化試験/バイアスの見つけ方)」を具体例とともに解説します。

Evidence Based Dentistry(EBM)の概念図
図:EBM/EBDの基本プロセス

歯周病や治療方針でお悩みの方へ:
当院はEvidence-Based Dentistryの考え方を重視し、患者さんお一人おひとりの状態に合わせた治療提案を行っています。治療について詳しく知りたい方は、初診時に現在の状態と選択肢の説明をさせていただきます(診療予約ページへのリンクを掲載してください)。

執筆:田川歯科医院|キーワード:EBM, Evidence-Based Dentistry, 歯科診療, 臨床判断, インフォームドコンセント