自由が丘の歯医者コラム

インプラント治療を習得するまで(part 10)

インプラントを学び続けて、最後にたどり着いたこと

1990年。

歯科学生だった私は、オッセオインテグレーションという、当時まだ新しいインプラント治療の概念に強く惹かれました。

科学的な根拠に基づいくて失った歯を取り戻す治療。

それは、それまで私が大学で学んできた経験値だけに頼る歯科医療とは、まるで違う世界に見えました。

ところが、実際に臨床に出てみると、大学で学んだものとは違うインプラントの世界がありました。

削る必要のないであろう健全な歯を削り、術後の痛みを恐れるがゆえに神経を取って、骨に付くことのないインプラントとそれらの歯を連結する。

「これが患者さんの望むインプラント治療なのだろうか?」

そんな疑問を抱いたことが、私のインプラント人生の出発点だったのかもしれません。

その疑問を払拭するために、私は欧米基準の補綴学や咬合を学び直しました。

やがて骨結合(オッセオインテグレーション)タイプのインプラント治療を始め、土台となる骨造成に取り組む治療までたどり着きました。

がしかし、今度は別の壁にぶつかることになったのでした。

骨が出来れば、それですべてが解決するわけではない。

インプラントを埋めることができても、その後にインプラント周囲の歯肉や歯周組織に問題が起きれば、長期的な安定は望めない。

また、別医が担当していた患者さんを突然引き継ぐという経験を通じて、

インプラント治療は、埋めるだけで終わる治療ではなく、そこからが患者さんとの新たなお付き合いのはじまり。

ということも身をもって知りました。

そこで私は、インプラントそのものを勉強するだけでは足りないと考え、科学的データに基づく臨床歯周病を本格的に学ぶことにしました。

2000年9月から参加した西堀歯科の勉強会では、歯周組織の解剖から始まり、歯周病の病態、診査・診断、治療計画、歯周外科、再生治療、咬合、矯正、そしてインプラントやインプラント周囲炎まで、基礎的なことから最新の臨床まで実に幅広く歯周病学を学ぶ機会を得ることができました。

英語の文献を読み、科学的根拠に基づいた症例を検討し、その臨床を評価するための文献を読む。

その繰り返しを毎日行い、気がつけばここまでの11年間で読んだ文献はゆうに1000本を超えました。

たくさんの論文を読み、臨床経験を積み、うまくいった症例だけでなく、うまくいかなかった症例も振り返っていると、少しずつ見えてきたことがあります。

それは、

インプラントは、歯科治療の目的ではない。

という、ごくごく当たり前のことでした。

インプラントは、失った歯を補うための治療オプションの一つでしかなかったのです。

自分の歯を使えるのであれば、自分の歯を使って機能を回復すれば良い。

ブリッジが適していることもある。

入れ歯が適していることもある。

そして、インプラントが適していることもある。

大切なのは、

「インプラントを入れられるか」

ではなく、

「治療のメリットとデメリットを踏まえ、この患者さんにとってはどの治療を選択するのが最も良いのか」

を考えることなのだと思います。

口の中は、家にたとえれば、雨も降れば、風も吹き、時には地震まで起こります。

唾液という「雨」。

食べ物という「風」。

そして歯ぎしりや食いしばりという「地震」。

そんな過酷な環境の中で、長く機能する家を作ろうと思えば、立派な屋根だけを作っても仕方がありません。

まず土地を調べる。

診査と診断をする。

設計図を描く。

治療計画を立てる。

そして、歯内治療、歯周治療、矯正治療、咬合治療などの基礎工事をしっかり行う。

そのうえで、ブリッジなのか、入れ歯なのか、インプラントなのかを選ぶ。

振り返ってみると、私がインプラントに惹かれた1990年は、インプラントこそが未来の治療であることのように思いこんでいました。

ところが、インプラントを学べば学ぶほど、私の中でインプラントの位置づけは、どんどん小さくなっていったのです。それは、インプラント治療の価値を否定することではありません。

むしろ逆で、インプラントの長所も、短所も、限界も知ったからこそ、必要な患者さんには、必要な位置にだけ使う。

そして、必要のない患者さんには、決して勧めない。治療の責任を担う自分にも治療を受ける患者さんにもWIN-WINな結果を生むことが理想の歯科医療なのだと思うようになりました。

患者さんにとって、本当に必要な治療とは何なのか。

その答えを見つけるために、科学を学び文献を読み、臨床を検証しまた文献に戻る。

そんな堂々巡りを、長い間繰り返してきました。

そこで、ひとまずこの長い「インプラント修行」の話は終わりにしたいと思います。

これ以降は、私自身の経験談を延々と語るよりも、

「この治療には、どんな科学的根拠があるのか?」

ということを、文献をベースとしてお伝えしてみたい。

そんな思いから、このブログを書き始めることになりましたので今後ともお付き合いください!